Introduction
私が彼女について覚えている事といえば、本当に僅かな事柄しかないのです。全ては乳白色の海に沈み、波の音しか聞こえてきません。
それはきっと、原初の海。
白濁した海原から彼女の記憶の残骸を拾い上げる事は、貴方が想像している以上に大変な作業だとご理解頂きたいのです。
朝霧の中で、水面に照り返す強い陽の光の中で、夜の闇の中で、私は何度も何度も繰り返してきました。
それでも、僅かなのです。
何度も何度も繰り返し拾い続けた成果は、ほんの僅かしかないのです。
記憶はいつも、波の音の中ではじまります。
白濁した海ではなく、原初の海でもなく。
あの青い海が奏でる――波の音の中で。
Story
離島で暮らす長谷部一花(主人公)は、毎日を精いっぱいに生きていた。彼女は友人である笹野奈々恵と共に、転校生の塚原東治と親しくなってゆく。
夢の中ではゼロという名の少年と乳白色の海原を眺めていたが、目覚めの度にその事実を忘れていた。何度でも、何度でも。
平凡だけれど幸せな日々。
それがいつか終わるものだと知っていて、かけがえのないものである事も分かっていた。
だから一花は笑うのだ。
その意識が潰えるまで。